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<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(5):幼なじみの正体> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第367回
<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(5):幼なじみの正体>


今日は展示会場に絵を持って行く日。実行委員のわたし達4人が絵を持っていって、アロン君が業者に展示方法の指示をする。明日の昼には会場が出来上がるはずなので、出来具合を確認して、修正があるようならして、それで準備は完了。後は展示当日を迎えるだけ。

それなのに実行委員だけでなく、C組の全員が絵を持って学校の階段を下りて会場に向かおうとしているのは、運んだ後にドジ担任先生からお茶をご馳走してもらおうというウォルトさんの発言によっておかしな話が成立しちゃったからだ。
詳しくは第1部のお話を読んでね。




階段を下りて玄関を前にすると、外は灰色の空で雨が少しパラついている。予報では特に雨が降るとは言ってはなかったけど、昼過ぎから降ってもおかしくはない空模様だった。

やっぱり降ってきちゃいましたね。

わたしはいつも鞄の底に折り畳み傘を忍ばせているので、それを取り出した。パンっと開いたとたんに、空を見上げてあれこれ言っていたアロン君やカーラさんがわたしの方へ振り返る。

あれ、わたしだけ? 傘持っている人。

「用意いいなあ。でもこれは、みんなの絵を防水加工した箱かなんかにまとめて入れて運んだ方がいいぞ」
「そうね。大きいビニール袋と箱探してくるわ」

カーラさんは校舎の中に戻り、階段を駆け上がっていく。その背中にウォルトさんが叫んだ。

「その箱、俺も運ぶの手伝うからな!」

カーラさんに向かって叫んだウォルトさんに、ジョンさんとアンザックさんが呆れて首を振る。

「お前、そんなにまでしてドジ担任におごってもらいたいのか? なんて奴だ」
「別にみんな来なくていいぞ。人数少なくなれば豪華なもの頼めるかもしれないし」
「いつもながらけち臭い低次元な発想だなー。ついていけねぇ」

なぜけち臭いとアンザックさんが言ったのかというのを一応解説しときましょう。
ドジ先生が実行委員と会場まで行った帰りにお茶でもしてこうかと言ったのは、絵を会場まで運んでお疲れ様という事だからなんだけど、それなら自分のは自分で運べば皆お疲れ様になるという勇夫君の発想から、C組全員で絵を運んで全員お茶をご馳走になろう、しかもドジ先生のおごりで、ということに話が変わてしまった。それが皆がここにいる理由。
ところが雨が降ってきて、濡れないよう皆の絵を防水処置をした箱に入れて持ってくとなると、箱を運んだ人だけがご馳走してもらう対象になるのではと危惧したウォルトさんが、箱を運ぶのを何とかして関わろうとして、さっきのカーラさんへの声掛けとなるのです。

どう? けち臭い?



カーラさんが段ボール箱とビニール袋を持って戻ってきた。

「みんな絵を頂戴。このビニール袋に入れるわ。アロン君、袋もう一つあるから、段ボール箱も包んじゃおう」
「二重にするのか。さすがカーラ」
「カーラは特殊工作員だからな」
「余計なこと言わなくていいのよ!」

ちょっかい出したレソフィック君を蹴るふうに追いやるカーラさん。海賊事件でカーラさんが工作上手なところを見せて以来、レソフィック君は度々このネタでカーラさんをからかっている。

絵を入れた段ボール箱をアロン君がビニール袋で包んで念入りに縛り、準備が整うとみんなは外に出た。

「今ならまだ雨はパラパラ程度だ。たいしたことないうちに運んじゃおう」

一足先に傘をさして待っていたわたしは、箱を担いで出てきたのがアロン君だったので、ちょっとウキウキしてしまった。アロン君の上に傘を傾ける。

「はい、どうぞ。でも傘小さいから、入れるのは箱だけでしょうけど」
「それだけでも十分ありがたいよ」
「急ぎましょう。雲が厚くなってるわ」

カーラさんが急かす。ウォルトさんのけち臭い魂胆とは関係なく、C組のみんなも行く末を案じて付いてきた。






途中で担ぎ手がアロン君からジョンさんに代わった。
その交代の時ウォルトさんが「あ!確実におごってもらおうと思って実績作る気だな?」などと言って騒いだのは大した問題じゃない。一番の問題は傘を掲げていたわたしの手が釣りそうになった事だ。背の高いジョンさんの上に傘を持っていくと、背伸びまがいの格好になって歩くのにも支障がでそうだった。

「ジョンさん、ごめんなさい。入ってる?」

そんなだったから、見かねたイザベルさんがわたしの代わりに傘を持った。

「裕美子じゃジョンと背が釣り合わないよ。私が傘持つ」

イザベルさんはひょろりとして背も170cmくらいある。わたしよりうってつけ。「ありがとう」と言おうとしたら、美女さんが割り込んできた。

「あたしの方が背高いよ。あたしが傘持つ」
「わ、私が先よ」
「なによ。あんたじゃ背以外もジョンとじゃ釣り合わないわよ」
「ひどっ! スレンダーさなら私も負けないからね!」
「あんたやせ過ぎだって」

こうしてみると、実は親切で傘を持つのを交代したわけじゃなかったってことなのかしら。
とにかく男性誌のモデルやってるジョンさんと並んで歩くポジションを巡って取り合いがが始まった。

「背の高さでわたしでいいでしょ。次ミシェルあたりに交代したときにでも傘持ちなよ」
「私が先に傘交代するって言ったんだから、私が先! ミシェルのとき美女が傘持ちなよ」

急に名前が出てきたミシェルさんが首をひねる。

「次が俺って誰が決めたんだ?」

それはかっこいい男子でジョンさんに次ぐ人気なのがミシェルさんだからってことらしいんだけど、荷物持ちの順番にも適用されるとはミシェルさんも思わなかったらしい。
わたしが手を伸ばしても届かないはるか高空でわたしの傘が二人の手の間を行ったり来たりして、「いいから早く運ぼうぜ」というレソフィック君の仲裁も聞かず道端で思いがけない停滞をしてると、急に雨脚が強まってきた。いいえ強まったなんてもんじゃない、激しい土砂降りになった。

「うわ、こりゃひでえ!」
「ひゃあ! 土砂降り!」
「空の栓が抜けたか?!」
「どっかひさし! 雨宿りできるところ!」

皆が影になる屋根を探して散り散りに走り出した。傘を持っているイザベルさんも傘が小さすぎてこの降雨に耐えきれずどこかへ物凄いスピードで走って行った。絵の入った箱を持ったまま残されたジョンさんがその背中に向かって叫ぶ。

「わあ! 荷物守ってくれよー」
「ジョン、あっち!」

カーラさんが指さす。その先でアロン君がこっちだと手招いている。
ジョンさんが走り出す。

わたしは呆然と立ち尽くした。いえ、正確には呆然とではなかった。頭の中で「いけない!」という声が聞こえてた。だけどカーラさんが

「ユミちゃん!」

と呼んだから、体がジョンさんの後を追ってしまった。

まずい。
行っちゃいけない。

肩に当たる大粒の雨だれを感じて、このまま皆に付いて行っちゃいけないと、どこかで感じている。
なのに、なのに、なぜ付いて行ってしまったんだろう。

小さな軒下に、パウロさんとハウルさんとシャノンさんとクリスティンさんが収まりきらずに押し合いへし合いしている。そこを通り越して、わたしはジョンさんに続いて倉庫の張り出した屋根の下に逃げ込んだ。みんなのはあはあという荒い息遣いが聞こえる。

どうしよう。

頭の中が真っ白になる。
髪から垂れる雫が背中を伝った。

もう、隠れられない。

「傘の奪い合いなんかしてるからだぞ。とっとと行けばもう少しで展示会場なのに」
「その肝心の傘がいねえぞ。イザベル、どこまで行ったんだ?こんなときには体力あるんだな」
「うわあ、びしょびしょ。ジョン、作品大丈夫?」
「箱はかなり濡れたけど、中は多分大丈夫だよ」
「念入りに包んだから大丈夫だと思うよ。しかし、せっかく傘持ってたのに、持ち主の小泉も濡れちゃったね。あ……!」

アロン君の驚く声が聞こえた。アロン君も気付いたんだ。でも、もう遅い。もう逃れられない。

わたしは皆の視線を感じた。皆の声が止まり静まり返った。
そこに足をこちらに向けて近寄ってくる人がいる。
顔を上げた。曇ってしまったメガネで顔は見えなかったけど、誰だか声で判った。

「……ちょっとあんた……」

最悪の人だった。

その人の手がわたしのメガネに手をかける。ゆっくりと、少し震えるように、メガネが引き抜かれた。

視界の曇りは取れたけど、ピントが合わないから変わらずぼやっとした顔がすぐそこにあった。雨に濡れた中に漂う耽美な大人っぽい匂い。本当にこの人とわたしは同じ年なのかな……。

「な、夏のおさななじみ……?」

困惑した美女さんの吐息がわたしにもかかる。




その後のことはなんだかよく覚えていない。
うなされた様に謝ったような気がする。
いつの間にか家の前まで連れていかれて、ずぶ濡れのままエレベータに乗ったと思う。
最後にマンションの玄関前で声を掛けてくれたのは、リーダーだったと思う。
こんな時までリーダーに迷惑をかけてしまった。
一緒に秘密にしていたアロン君にも迷惑をかけてしまった。
騙していた美女さんに、カーラさんに、皆に……もう、駄目だ。


次回「メインタイトル未定(1):サブタイトル未定」へ続く!

前回のお話「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(4):アロン君がわたしの後ろに見ているもの」


対応する第1部のお話「第1部:第19章 ばれた正体」 「第1部:第20章 学内ライブ(1):あの後」
  ☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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今回のも第1部の同シーン投稿から丸7年になります。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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