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<第2部:第3章 オリエンテーリング(3):ミスコース> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第256回
<第2部:第3章 オリエンテーリング(3):ミスコース>


第1チェックポイントから上流の方を望むと、いくつかの尾根の向こうに第2チェックポイントである滝が見えた。A班は川を遡上し、第2チェックポイントへ向かうことにした。川に沿って進むといっても、河原は巨大な石がゴロゴロしており、岩を飛び越えながら行くのはなかなか距離が稼げなかった。


30分ほど行ったところで、低い尾根に仕切られて河原は二手に分かれていた。一方は枯れ川のようで、もう一方はさらさらと清い水が流れている。先頭でルートを見つけながら道案している勇夫はみんなよりかなり先行して前の方を歩いていたが、既に水が流れている方の河原を突き進んでいた。それにぴったりつ付いて行っているのがハウルだった。
班全体のペースは一番遅いシャノンと裕美子に合わせている。レソフィックは立ち止まって後ろを振り向くと、少し引き離されたシャノンと裕美子が追いつくのを待った。一緒に立ち止まったパウロにレソフィックが言った。

「あのハウルってのすげぇな。よく勇夫についていけるよ」

パウロも頷く。

「まったくだ。この酷い道もないところをかなりなペースで行ってるよな」
「それだけじゃないよ。勇夫はルート探すためにたまに横の斜面登ったり岩登ったり、寄り道をずいぶんしてるんだけど、ハウルもそれに付いて行ってるんだよな」
「サルだな、2人とも」

チャンがやってきた。

「僕ら速く移動できてるだろうか。中間チェックポイントにはぜひB班より早く着きたい。このペースで大丈夫かな」
「これより速くしたらあの2人が付いてこれないよ」

ハウルを除く女子集団がすぐそこまで到着した。キャリーが岩の裂け目を軽々とまたいで越える。次のシャノンは走り幅跳びのように全身で跳躍した。裕美子はシャノンほどでないにしても助走つけて飛び越えた。
これを見れば体格差のハンデをリーダーも再確認せざるを得なかった。しかし追い付いたシャノンはレソフィックとパウロの前に到着すると、元気に右手を挙げて

「うっしゃ!」

と声を上げた。まだまだ元気そうでリーダーはちょっと安心した。





それからさらに30分後。

「勇夫君とハウルさんどこだ?定時連絡入れないとなのに」
「キャリー、見えないかい?」
「さあ」

河原の状態は相変わらずだった。左右の山はより接近して谷が狭くなり、目標のチェックポイントの滝も全く見えない。
裕美子はしゃがむと、だいぶ近付いてきたクスス山を見上げた。シャノンも「ふぃ~」と言いながら隣に座った。キャリーもやってくると

「食べる?」

といってあめ玉をくれた。自分の周りにみんなが来てくれたことが嬉しかった。
あめをなめながらザックから記録用ノートと方位磁石を出すと、裕美子は時刻と辺りの見取り図を書いた。今までもちょっと止まる度に記録を取っている。こんなものが役に立つとも思えなかったが、何もせずにはいられなかった。何しろ道なきところを歩かされているというのに地形図も配られていない。地図らしきものは、まるでおとぎ話の宝の地図のような、位置関係だけが正確だという絵地図だけだ。ほとんど山中に飛行機が墜落して放り出されたような遭難状態である。少なくとも先には進めなくなっても、来た道を戻って帰れるようにしたかった。

「ハウルさんいない?!どこいっちゃったんだ!ミシェル、予備のサテライトフォン出して!」

向こうでリーダーが怒って吠えていた。
ミシェルが担いでいた予備資材のサテライトフォンを出すと、リーダーはハウルが持ってるはずサテライトフォンに電話をかけた。

「おいおい、非常物資使っちゃうのかい?」
「今非常事態なんだ。・・・どこにいるんだ!勇夫君も一緒か?」
・・(あれ?もしかして定時連絡の時間?ごめーん、すぐかけるわ。ブツッ)・・
「その前に君らどこにいるんだー!」

もう切れてしまった電話に叫ぶリーダー。すぐにリダイヤルするが、もう話し中である。ヤレヤレとその様子をにやにやしながらレソフィックが見ていた。

「河原の中にはいそうにないから、また横の斜面登ってんのかな。こんなときアロンがいればなあ。あいつ望遠鏡みたいに目がいいから」

『そうなんだ。アロン君は目がいいのか・・』

今頃B班はどこまで進んだだろうか。一緒の班で行動したかったな。そうしたらもっと楽しいのだろうか。いろいろお話ができただろうか。
そのうちザザザザーっと横の藪の斜面を滑る音がして、そっちの方を見るとハウルが降りてくるところだった。怒り気味のリーダーが出迎えた。

「どこ行ってたんだ!」
「この先がどうなってるか偵察よ~。あ、定時連絡はしといたわよ。みんな元気でーすって」
「みんな無事かどうか確認もしてないじゃないか。それで勇夫君は?!」
「あそこ」

と、さっきハウルが降りてきた斜面の上にそそり立つ、名前があれば『ローソク岩』とか呼ばれそうな露岩を指差した。そのてっぺんに仙人のように突っ立っている勇夫がいた。どっから登るんだ、あんなところ。

「なんかねー、このままこの川登っていってもチェックポイントの滝に着きそうにないのよねえ」
「な、なんだって!」
「谷が狭くなっちゃって滝も見えなくなっちゃったでしょ。高いところ登って確かめようって勇夫が」
「そりゃ必要な行為だな」

パウロは認めた。

「でね、でね、登ってる途中で赤い実が生ってて、これなあにって聞いたら、それは野イチゴだって言うのよ!食べてみると甘酸っぱくって目が覚めるようだったから、2人して摘んでてさ。そしたら電話がかかってきて・・・やば!」

リーダーは頭から湯気を出しそうだった。

「偵察も定時連絡もそっちのけで、野イチゴ摘んでたってわけか!」
「ア、アハハハ・・はい、お土産のイチゴ」

ハウルはバンダナに包んだ野イチゴを差し出した。シャノンが駆け寄ってきた。

「ちょうだーい」
「はい、あーんして」
「あーん・・・モグモグ・・すっぱーい!」
「お子さまには無理かなー?」
「お子さまじゃないよ!」

シャノンはいくつかつまみ取ると裕美子とキャリーに配った。

「キャリー、あーん」
「えー?」

大きなキャリーは苦笑して体を屈めた。

「こいずみ、あーん」

口に放り込まれた野イチゴは、たくさんある粒がプチプチっと弾けると酸っぱい果汁がほとばしった。酸っぱさの方が勝っているが、奥に甘みもちゃんとある。もう少し甘みも強くなったら結構病みつきになるかもしれない。さっと砂糖やハチミツで煮たら爽やかなジャムができそうだった。

「本当に目が覚める。ビタミンCいっぱいですね」

裕美子はニコッとシャノンに返した。

「お前、よくあの勇夫に付いていけるな」

レソフィックはミシェルやパウロにも野イチゴを配ってるハウルに言った。

「そう?ついて行くといろんな変なとこ行ったりして面白いわよ」
「そんなこと言う奴、初めて聞いた」

さすがのレソフィックも目を丸くした。
和やかな休憩のようだが、リーダーだけはピリピリしていた。

「それで偵察の結果はどうなんだ。勇夫君はまだ降りてこないのか?」

岩のてっぺんにはもういなかったので、降り始めているはずだ。
そしてしばらくしたら斜面を降りてきた。

「野イチゴが沢山生ってててさあ、帰りがけに土産に取ってきたよ」
「き、君は偵察に行ったんだろ!土産のイチゴはハウルさんにもらったよ!そんなことしてないでとっとと降りてきて報告するべきだろう!」
「でもハウル、赤いのしか持ってこなかったろ?黄色い実も見つけたんだ」
「え!?どれ?ちょっと食べさせて!」

ハウルが勇夫のところに突進しそうになったところでリーダーが爆発した。

「何やってんだ!まず報告しろよ!こうしてる間にも時間は過ぎてくんだぞ!しかも道が違う可能性があるって言うじゃないか!」
「え?ああ。上から見たら今いる川はこの先でもっと右の谷筋にいっちゃって、明らかにチェックポイントの滝にはつながってないと判ったよ。そうするとあの滝から流れてくる川はどれなんだろ。まるで違う方に流れてるのか、それともあの枯れ川の方なのかなあ」

首をひねる勇夫。

「あっちの谷は水流れてなかったじゃない」

キャリーが言うとそれにはレソフィックが答えた。

「表面には流れてなくても地中に川がある場合もあるよ。砂礫の層を水は流れるから砂が深いと地表には現れない事がある」

『へえ。アウトドアが趣味というだけあってレソフィックさんも知識と実践が噛み合ってるわ。アロン君もきっとあっちで頼りにされてるんだろうな』

裕美子が感心していたらリーダーの大きな声でびっくりした。

「戻るってのか?!!」
「こっちが間違いってんなら戻るっきゃないよな」
「あの谷が分かれてたところから30分は歩いたぞ。往復1時間のタイムロス?大変な無駄足じゃないか!」
「川をたどろうとしてるんだ。水が流れてる方に俺だって行くよ」

リーダーが勇夫を責め立てるのをミシェルがかばった。

「そうだな。早めに間違いだと確認できたのも勇夫ならではだよ」

レソフィックでさえも勇夫をフォローしてる。

『みんな優しい・・わたしいい人達の中に入れたんだな・・・』

追いつめられそうなときでも優しさが失われないというのに裕美子は安心した。自分も何かした方がいいだろうかと思っていたら、ハウルが先に口を開いた。

「そうそう、うまくいかないことだってあるって!失敗したらやり直せばいいのよ」

全然気にしてないふうである。
リーダーも深呼吸した。

「・・・そうだな。でも失った時間は取り戻せない。これはみんなで少しずつ挽回していこう。だから勇夫君、偵察は大事だけど、急にいなくなったり、道草食ったりは厳禁だぞ!あとあんな危なっかしいところに行くのもだ!怪我とかしたら取り返しつかないじゃないか。ハウルさんも注意してくれよ」
「面白いのに・・・」
「何だって?」
「なんでもー。でも何でそんなに急ぐの?」
「だって勝ちたいだろう?!」
「そりゃ勝てるならそれに越したことないけど」
「だから僕はそうなるよう全体を見回して軌道修正してるんだ。統率のとれた行動が大事だから。バラバラはだめだぞみんな!」
「へ~い」

いまいち力のない返事が返ったが、A班はみんなの意見も固まって元来た道を引き返し、再び第2チェックポイントへの道なき道探しに一丸となって進み始めた。


次回「第2部:第3章 オリエンテーリング(4):第2チェックポイント」へ続く!

前回のお話「第2部:第3章 オリエンテーリング(2):体育会系の猛者たち」


対応する第1部のお話「第1部:第1章 オリエンテーリング(7)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部オリエンテーリングでアロン達B班と合った時レソフィックが言っていた、「1時間タイムロスして、リーダーがすげえ怒っちゃって」というのが今回のお話でした。ミスコースだけじゃなくて勇夫とハウルにも振り回されていた、というのは今回加筆したものです。「第2部:オリエンテーリング(1):班分け」のときクリスティンと別の班になっちゃってクリスティンがひどく心配していましたが、なぜハウルが暴発しなかったのかというのを第2部で付け加えてみました。ハウルは勇夫と行動を共にすることでエネルギー発散していたんですね。
こんなに相性の合う二人ですが、第1部後半ではご存知のように、勇夫はハウルに僕として扱われています。(^^;
この二人がちゃんとしたカップルになるには第3部が必要ですね。(^^;


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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TSO

HAtAさん、「直chan」さん、くま・てーとくさん、bitさん、(。・_・。)2kさん、あいか5drrさん、xml_xslさん、ほちゃさん、nieありがとうございます。
by TSO (2012-05-06 21:34) 

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