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<第2部:第3章 オリエンテーリング(9):わたしもクラスの一員> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第262回
<第2部:第3章 オリエンテーリング(9):わたしもクラスの一員>


焚火地点では枯れ木の山が盛大に燃えていた。レソフィックが大声で勇夫を怒鳴り散らしている。

「ばっかか、勇夫!なんだ、このすごい量の杉の枯れ葉は!山火事にする気か!」
「緊急アピール用に集めといたんだ」

裕美子も近くまで来たが、ものすごい熱で近寄れない。パチパチジュウジュウと弾けるような音を立ててオレンジの炎は背よりも高くあがっていた。

『杉の枯れ枝ってこんなによく燃えるんだ・・』

「これじゃ水足りねえよ!パウロ、薪を分散させろ!広げて踏み消すんだ!」

そう言ってレソフィックが盛大なたき火の一角を蹴散らした。火の粉がパウロにかかる。

「あちちちち!」

その場に水は勇夫達がジュースを冷やすのに使っていたバケツ1杯分があるだけだった。
レソフィックは持ってきた毛布をそのバケツに突っ込んで濡らし、蹴っ飛ばして一抱えくらいに小さくした火にかぶせた。熱と酸素を奪われた炎は毛布を燃やすことなく消えた。

『なるほど。水を直接かけるよりこの方が水少なくても消せるんだ。でも毛布が乾いちゃったら火が燃え移っちゃうかも・・』

裕美子はひとまず散らかして消化するスペースを確保しようと、道やその脇に落ちてる燃えそうなものを片付けることにした。
そこにドジ担任やリーダーもポリタンやウォータージャグを持ってやってきた。

「うわー!C組の栄光を、事件起こしてふっとばさないでくれえ!」
「こんな盛大な火だったのか?!水たらないぞ!」

レソフィックがチャンに向かって叫んだ。

「リーダー!燃え広がらない程度に散らすんだ。それで個別に踏み消せ!」

その時、まだくべてない枯れ枝の固まりを持ってどかそうとしていた裕美子と目があった。

「あ、いや・・、君はなんもしなくていいよ」

新たな借りを作ってしまうと思ったらしい。こんな時であってもそういうことに気が回るのかこの人は!

「ななな何言ってるんですか!そんなゆとりどこにあるんです!わたしもクラスの一員でしょう!」

勇夫とハウルが空になったバケツを持って道の下にある沢へ斜面を駆け下っていった。リーダーやキャリーが火の粉を振りまきながらたき火を崩して小さくして踏み消している。飛んだ火の粉が周りの下草に火をつけないようパウロが飛び跳ねて消していた。

「す、すまん!よろしく頼む、そのまま続けてくれ!」
「まったく、あなたのお友達には困ったものです!」

ギャース!とレソフィックの悲鳴が聞こえる。

「勇夫!後でぶっ殺す!!」





乾燥した杉の葉は油を含んでいて着火性もよくあっという間に高い温度を上げて燃えるが、実質の体積は小さいので燃焼時間は短い。チャン達が突き崩して散らばした焚き火もすぐに燃えるものが尽きて次第に鎮火していった。みんなは風で飛ばされた灰が周辺の下草などに燃え移らないよう気を配っていた。

もともとの焚き火にくべてあった太めの薪だけが熾き火となって赤いホタルのように道の両脇でちらちらしている頃、B班がようやく見えてきた。
先頭はカーラで、みんなを誘導しているようだ。ほかのみんなは二人一組になっていた。最初に来た黒い影は、やたらと大きな塊だと思ったらジョンとウォルトだった。

『あ、アロン君だ』

その次に来たのはアロン。細いクモのような腕をアロンの首に巻きつけてしがみついていたのはイザベルだった。最初それを見たとき、裕美子はズキッとして嫉妬心が湧いた。が、イザベルの顔を見たとたんそんな気持ちはすぐに飛んでいってしまった。血の気の失せた顔、うつろな目は足元の少し先辺りを見ている。必死の形相だった。足も思うように前に出ないようで、半ばアロンが人形を引きずっているかのようである。赤くちらちらと光る焚き木を避けて歩くこともできないようで、アロンはそれを蹴ってどかした。
クリスティンはアンザックにほとんど身を預けていた。クリスティンが相当重たいらしくアンザックは必死に抱えているが、どう見てもあの大きな胸を掴んでいるように見える。しかし二人ともそんなことはもうどうでもいいようだ、
ダーニャは右足の膝から下を包帯でぐるぐる巻きにしており、地面に着けられないようだった。杖代わりになっているシャルロットも険しい顔をして前だけを見ている。
あんな騒ぎを起こしたにもかかわらず、勇夫は赤々と燃える松明を持ってアロンの足元を照らしながら声を掛けていた。

「アロン、もうちょっとだぞ!」

アロンは懐中電灯で勇夫の顔を照らした。煤けて黒い顔している。

「何か・・・やったろ」
「うひ!」

A班のみんなはB班に付いて一緒にゴールへ向かって歩いていった。裕美子はアロンの横に並んだ。満身創痍の様子を見ていると胸が苦しくなった。

『こんなになってても助けちゃいけないの?・・それってひどすぎない?』

裕美子はいてもたってもいられず泣きそうな声でアロンに声を掛けた。

「こんなのを見ているだけなんて酷すぎます。クラスメイトを助けて何が悪いんですか?わたし、もう・・」

イザベルはもう何も聞こえないかのようだ。アロンだけが裕美子の方をちらっと見た。

「大丈夫、もうゴールは見えてる。自力で歩き抜いて完走するんだって決めたんだ。だから手、出すなよ」

裕美子はびくっとした。こんなでも精神はまだ崩れてないのだ。






ゴールでは先生たちが拍手していた。シャノンも大手を振って声援を送っている。
カーラが、ウォルトとジョンが、ゴールラインに立った。ダーニャとシャルロットがその手前に座り込んだ。イザベルもその横に下ろされた。クリスティンとアンザックが両手を広げるジョンのところに着いた。
ゴールラインはみんなで一緒に越えると決めていたようだ。

「行くぞゴールへ!」
「はやくー!」
「せーの!」

どどどっ。

倒れこむようにB班はゴールラインを超えた。

「わああ!」
「やったー!」

A班のみんなが覆いかぶさるように抱きついてきて、もみくちゃになった

「あはっ、あはっ、あはっ!」
「うわ~ん!」

咳き込むようにダーニャとカーラが泣く。クリスティンがハウルにしがみついて泣いている。
裕美子はそのもみくちゃの塊に入れなかったが、頬からぽたぽたと滴る涙はみんなとの一体感から来るものだった。裕美子の横で、同じく抱き合っている塊に入ってなかったチャンが雄たけびをあげた。

「うわおー!C組全員完走だー!」

それに男の子達が拳をあげて応えた。

「うおーー!!」






しばらくしてみんなも興奮から落ち着きを取り戻し、焚き火の消火作業と後始末で体育会系のA班もさすがに疲れて静かになっていた。みんなはテントの周りにたむろしている。生徒達の疲労具合から各生徒の家の近くまで車で送るということになり、送迎用の車の到着を待っているのだ。
女子と男子でそれぞれ塊り合っていたようだが、裕美子は一人隅っこで毛布を被って横になっていた。テントの辺りは芝ではないが似たような下草に覆われていて、ふかふかとして気持ちがよかった。しかし神経がまだぴりぴりした感じで、体は疲れているというのに眠くはならない。今夜はもしかすると寝つきが悪いのかもしれない。

すぐそばにどさっと音がして、誰かが座った。そしてプシュッと炭酸飲料の缶を開ける音がした。

『そういえばそんな飲み物もテントの中にあったっけ。まさか先生達がビールを開けているわけじゃないよね。まだ勤務中だし』

「くぁー、炭酸モノの方が刺激があって喉の渇きにきくぜ」

『え!この声、ア、アロン君?!』

すぐそばに座って炭酸飲料を飲んでいるのはアロンだったのだ。とたんに緊張して体がこわばった。もう一人誰かいるようだ。

「ビールがあればなー」
「あったとしてもここでは無理だろ」
「帰ってからが楽しみだな。今日は旨いぞー」

『もう一人はレソフィック君だ』

昔からの付き合いらしい2人だし、昼は別々の班に分かれて行動していたので、きっと話したいことがいっぱいあるんだろう。

「でさ、今日はだいぶがんばってみたんだが、結局あの借金は返せ切れなかった」
「丸一日あったのに?女だったら助けるようなこといっぱいあったんじゃねえの?」
「それがなかなか難物で、3人助けたんだからまだ一人分だとか、こんなの当たり前に人にやってあげることだから恩返しにはなりませんーみたいな感じで、なかなか認めてもらえなくて・・。言ってた通りやっぱ高くついたみたいだぞ。えらいのに掴まっちゃったな」

何の話をしてるのか察しが付いてしまい、急激に気分がどんよりしてきた。

『この調子でアロン君にわたしの悪い印象を植え付けられてしまうんだわ。仲良くなりたいどころか、できれば関わりなくないみたいに思われる・・・。そんなんだったら本当に高く恩を売ってやった方がいいのかしら』

「しかも最後に勇夫のアホのぼや騒ぎだろ。当然あいつも手伝ってるから、また借金が増えちゃったみたいでさ・・」
「いかにも恩着せがましく迫ってたんじゃねえの?これで借りは返したぜって、何かやる度に」
「うっ!そ、それかなりまずかったか?!
「いい印象持つわけないだろー。繰り返されてるうちに、お前が何かやりだすと『これももしかして恩を着せるための行動では』って疑うようになっちまうよ」
「そうだな・・確かに後半はそんな感じだったかも・・」
「ほれみろ。もうお前には任せらんないな。かえって警戒されて、借金返す前に借金倍増計画とばかりにもっと貸しを作らされて、俺ら高校3年間は借金返済に費やされるんだ」
「始まりはお前が安易にキャリーの歓迎をあいつらに任せちゃったからだろー?借金は計画的にしなきゃ」
「レソフィックだってあの時我先に手で拝んで頼んでたじゃんか。だいたい気にとめ過ぎなんだよ。お前の場合度を越えちゃって、アホ相手ならいいけど、彼女すげー頭良さそうだったから、もうもろバレでうっとおしがられてたんだろ。やり過ぎ魔が」
「調子に乗りやがって、そろそろ怒るぞ。・・しかし確かにあの無表情な顔にもかかわらず『またか』って雰囲気がありありと出てたような気がするな・・顔じゃなけりゃ全身?ありゃあ堅物だぞー、どうする?」

『・・わたし、無表情なんだ。・・分かってはいたけど・・』

他人が持つ自分の印象を聞いてしまって、あらためて気が重くなった。アロンにもそんなふうな紹介のされ方をしてしまった。・・でもいずれ分かることだ。少し早まっただけのことだ・・・。

「でもなー。その堅物が良識を持っててくれたおかげで、偏った考えのもう一人の堅物を説き伏せてくれたから、今俺がここにいて、お前のやり損ね話を聞けてるんだ。あれなかったらマジで俺ら死んでたぜ。感謝しなきゃ」

『感謝?アロン君がわたしに感謝?・・そっか、あのとき、わたし役に立てたのね・・』

「そ、それって特大の借りじゃねえか。やべえよ、本当に3年間借金返済で終わっちまう」
「だからよー、それって俺らへの貸しになるのか?恩恵を受けたのはクラス全体だぜ。そういうところでいちいち借りだ貸しだってやってるから、返せるもんも返せなくなってるんじゃねえの?」

裕美子は眉間にしわを寄せてうんうんと頷いた。

『ほんと、その通りだわ』

裕美子もそう思ったところで、お腹に何かがにゅっと乗っかった。

「ひゃ!」

思わず叫んで、上半身を跳ね上げて毛布から飛び出てしまった。
すぐ目の前にあった逆光気味の影は、見紛うはずもない振り向き加減のアロン。そしてその右手がこっちの方へ伸びて、裕美子のお腹の上に乗っていた。どうやら寝そべろうと体を倒して手を伸ばしたところに裕美子の体があったらしい。

「うわあ!!」

ものすごい驚かれた。そりゃそうだろう。そんなところに人がいたこと、しかもそれが話題になってた裕美子だったこと、女の子のお腹を触ったことは驚きに含まれているだろうか?

「き、聞いてた?」

慌ててた裕美子は声もなくこくこくと首を縦に振った。
アロンとレソフィックが見合って苦笑いした。またアロンが言った。

「大丈夫?へ、変なところ、触ってなかった?」
「お、お腹・・平気です」
「ご、ごめん」

しばらく無言になったのち、苦笑いの顔のままアロンがまた謝った。

「ごめん、なんか一日中レソフィックがしつこく失礼してたみたいで・・・」

裕美子は赤くなってどうしようかドギマギしてたが、暗かったし、自分で思うほど感情が表に出ないみたいなので、アロン達には怒ってるように見えたらしい。

「まあそう怒らないで聞いてくれよ。こいつ妙なところで細かいことにこだわる時があって・・・現金即時払い専門だからローンも組まないし、借りを作っちゃって慌てただけだから。別に嫌がらせとかそういうんじゃないんで、許してくれるかなあ・・・今日もまた他にもいろんなところで俺も助けてもらったし、これはちゃんとお返ししたいから・・・。何でもするから、君の好きなときにいつでも言ってきてくれよ」

アロンの大盤振る舞いぶりでは無限責任を負わされると思って、レソフィックがやばいやばいと無言でアロンに訴えかけるが、アロンはそれを制した。

「大丈夫だよ、この人そんな無茶言う人じゃないよ、頭いいし。・・・俺らで役になりそうなときはいつでも言って。俺、窓口だから」

『アロン君が窓口?・・・これ公式にわたしアロン君ところに話に行ける理由ができるってこと?』

今日持たれたかもしれないマイナスイメージを払拭して、仲良くなれるかもしれないきっかけを持てたってことだ。裕美子はぱあっと気持ちが明るくなった。すると急に嬉しさがこみ上げてきて顔が緩みそうになった。

『い、いけない、こんなだらしない顔見せられない』

急いでここを離れようと思った

「わ、わたしもいちいち貸し借り気にしながら日常送るのは嫌です。あなたの言う通りでいいわ。ありがとう、その時はお世話になります」

ぺこっと頭を下げると、ととととっと早足でその場を離れた。
うれしい。だめだ、きっと顔がにやけてる。こんなのアロン君に見せられない。


早足でテントの方に戻ると、ハウルとクリスティン、カーラが待っていた。ハウルが手を挙げてまだまだ元気な声でかけてきた。

「帰る方向同じよねえ。もう車来るっていうから荷物持って行こう」

するとカーラが裕美子の顔を覗き込んだ。

「ずいぶん疲れたみたいね。熱っぽくって顔色悪そうよ。大丈夫?」

『・・・え?わたし嬉しくってだらしない顔になってると思うんだけど・・・』

どうも感情が普通に外に出なくなっているらしい裕美子だった。






帰りの車に揺られていると、さすがに疲れが溜まっててウトウトしてしまった。そんなとき、隣のカーラが優しく寄り添ってくれてた。明日学校休みでよかった。きっと朝起きられない。

最初車から降りたのも裕美子だった。
別れ際、みんなにハグされた。いつもならたとえ女の子であっても体に触られるのは怖いのに、この人達にハグされるのは嫌じゃなかった。今日の過酷な一日を共に乗り越えたからだろうか。この人達は信用できるからだろうか。
こんなに早く人と触れ合えるようになるなんて・・・コミュニケーションとれるかさえ心配していたのに・・・
その進歩に驚きだった。
『きっとここなら昔のわたしを取り戻せる。取り戻せそうな気がする』

「またね」
「ぐっすり眠ってね」
「おやすみ。また学校でね」

ああ、いつ以来だろう、こんなふうに友達と別れたの。


楽しい一時があった思い出、ふたつ目。
今日は、クラスの一員になれた・・気がする。
そして・・あの人と話しをしていいきっかけもできた。
神様、どうか今度はこの人達とのいい関係を、壊さないでください。


次回「第2部:第3章 オリエンテーリング(10):表彰式」へ続く!

前回のお話「第2部:第3章 オリエンテーリング(8):B班を迎えに」


対応する第1部のお話「第1部:第1章 オリエンテーリング(14)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



Copyright(c) 2009-2012 TSO All Rights Reserved




クスス山オリエンテーリングは、裕美子にとってC組という仲間を意識させた重要なイベントでした。
次回はオリエンテーリングのお話の最終回です。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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コメント 2

K-STYLE

こんばんにゃ(*´◇`)/
復活したてで、なにやらウキウキ中の かっぱです
またみなさんとの交流ができると思うと楽しみですにゃ~

片いなか・ハイスクールも、ずっと読まないでしまったので、
どこまで戻れば良いのやら~(TωT)あうあう

また、ゆっくり楽しませて頂きますにゃ~

by K-STYLE (2012-06-17 20:47) 

TSO

ぼんぼちぼちぼちさん、xml_xslさん、K-STYLEさん、bitさん、Lobyさん、くま・てーとくさん、(。・_・。)2kさん、あいか5drrさん、「直chan」さん、toramanさん、niceありがとうございます。

かっぱちゃん、コメントありがとうございます。
このところの「おねがい!勇者様」のページはかっぱちゃんのうきうきした気持ちが現れてますねー。
片いなか・ハイスクールはそれじゃ最初っから。(をい)

by TSO (2012-06-24 20:40) 

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