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<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(9):ホタル乱舞> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第315回
<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(9):ホタル乱舞>


お腹も膨れ、周囲もだいぶ日が陰ってきた。みんなはアロンに率いられて、もう少し奥の、飛ぶというポイントへ歩いて移動した。
途中で左右に茂っていた木が覆い被さるように道の上にかかり、急に暗くなった。

『え?足元、全然見えない・・』

裕美子は立ち止まってしまった。もともと視力が悪いのに、日が落ちて急激に暗くなったのも加わって、目が闇に慣れないのだ。
先頭を行くアロンがちょうど後ろを振り向いた。

「小泉、どうかした?」
「あ、あの・・み、見えません。真っ暗です」

カーラとハウルがすぐ戻ってきた。

「すみません、わたし目が悪くって・・」
「暗くなりかけの時だから、目が追いつかないのよね。あたしも今すごく見にくいわ」
「アロン、懐中電灯使っちゃだめなの?」

アロンも戻ってきた。

「もうすぐ光り始める頃だから、電灯の光見ちゃうとホタルが見えにくくなっちゃうんだよね。手、引こうか?」

え?!わたしの手を?アロン君が?



するとがしっとカーラが裕美子の手を取った。

「あ、あたし見えてるから。あたしが引いてあげる」
「あ、ありがとう、カーラさん」

ちょっと残念に思ったけど、カーラの親切は嬉しかった。ハウルも気遣ってくれた。

「裕美子、ここ段差あるわよ。気を付けて」
「ぜ、全然見えません・・あ、これ?」

カーラにしがみついてしまった。

『これ、アロン君相手だったら緊張してたなぁ・・。カーラさんでよかったかも』

「・・越えました。カーラさん、ごめんなさい」
「うん、平気だよ、気にしないで。ライト点けちゃだめってアロン君が言うんだもん。この苦労が報われることを祈るわ」





もう少し先へ進んだところでアロンが止まった。

「おーし。この辺でいいよ」
「こんな所なんだ」

カーラは辺りを見回した。左右は林。道の左側、土手を降りたところに放棄された小さな畑があり、その向こうに小さな流れがある。さっきよりさらに暗くなってきているが、裕美子もだんだん目が慣れて見えるようになってきた。

アロンが
「そろそろ飛ぶよ」
と言った。

「どの辺に出るの?」
ハウルが聞いた。

「川の方だろ」
とレソフィックが畑の向こうの小川に目を向けたとたん、
「あ、あの川の横の薮の中光ってないか?」
と指差した。

「・・・ほんとだ!緑色のが光ってる!」

クリスティンが興奮した声を上げた。裕美子にもその小さな光の粒が見えた。
みんなが川の方に行ってみようと畑に降りていった。ふと裕美子が頭の上を見上げたとき、頭上3mくらいのところをすーっと動く光に気付いた。

「あ、飛んでますよ」

それが合図だったかのように、あちこちから湧くように光が増え始めた。
あそこにも、こっちにも。

「え?すごっ!急に出てきたわね」
「きゃあ、きれーい。カーラ、あっちの方にもいるわぁ」
「どこ?・・ほんとだ。奥の方にもいるんだ」

2,3秒のサイクルで明るくなったり暗くなったりを繰り返しながら音もなく舞っている。感嘆の声を上げるみんながうるさくないのかと心配してしまうほどデリケートそうに見えるが、はしゃいでるハウルの周りも平気で飛び回っている。
裕美子は畑に降りる土手の所に立ちつくして、口を半開きにして見とれていた。

『わあ、自然の光ってこんなにやさしいんだ。電気の光とは違って小さくて弱いようでいるけど・・そのメッセージは強烈。生命の力を感じる・・』

光るときも強弱があるので、強く輝くときは踏ん張っているかのようだ。裕美子には自分より頑張っているように見えた。
ホタルは飛んでいるだけでなく、裕美子が立つ低い土手の斜面の草むらの中にもいて、飛ばないで光っているのが何匹もいた。
小川のところにいたアロンが土手の方に戻ってくると、カーラがアロンのそばに寄っていった。アロンが上を指さしながらカーラに喋っている。

「飛んで光ってるのはだいたいオス。下の草の方で光ってるメスを飛びながら探すんだって」

アロンが言うと、カーラが意味ありげに草むらのホタルとアロンを見てた。そして何かアロンに向かって言ったようだったが、裕美子には聞き取れなかった。

『来てもらうためには下から光ってアピールしなくちゃなんだね。・・・わたしも光ったら、気付いてもらえるのかな』

でも、光るには勇気がいる。わたしにその勇気ある?
だけど光らないとそこにいるという存在さえも認めてもらえない。存在くらいは、知ってほしい。どれくらいの明るさで光れば気付いてもらえるんだろう。

『ホタルは光るために勇気を振り絞っているんだろうか。うううん、振り絞っているのは勇気じゃない。強く光ること』

気付いてもらえる程度に光り、でも引き寄せるほど強くは光らない・・・そんな都合のよい光り方なんてあるんだろうか・・・そもそもそんなのに意味あるんだろうか・・・
ホタルは答えを知っている気がした。自分も・・分かってる気がする・・でも、あえて知らないふりしてる。

そんなとき、レソフィックがホタルを捕まえて、それをハウルの手に乗せたのを見て、カーラが急に強く光り出した。

「アロン君、あたしものっけてみたい」

それに応えようとアロンは飛んでるホタルに手を伸ばしてみるが、ホタルは手の届かない遙か上を舞っている。すると一匹、アロンの肩の後ろの方に飛んできたホタルがアロンの体の中に消えた。

「カーラ、俺のどっかにいったぞ。それ捕まえなよ」

アロンが屈むと、カーラがその周りをまとわりつくようにしてホタルを探した。

「動いちゃダメよ。ああ、ちょっとじっとして・・」

なんだか急に仲良くなったようだ。
二人の身体が一塊の黒い陰になったとき、あの広報の記事作成のため集まったレソフィックの家で真夜中に見た光景がかぶさった。アロンの隣に寄り添って寝ていたカーラの姿。急に胸が締め付けられるような苦しさを覚えた。
そしてその塊は、急に動かなくなった。まるで一つでいたいかのようにじっとしてる。裕美子はじわじわとこみ上げてくる嫌な気持ちで、どんどん胸が苦しくなっていった。
でもそれはじっと止まっていたわけではなく、カーラはゆっくりとアロンの背中から離れていった。アロンの体に止まったホタルを慎重に拾い上げていたからだった。カーラの手には淡い一つの光があった。それに見入るカーラ。弱かった光は、すぐに強弱のはっきりした光に変わった。

「見て、きれい」

指先に乗ったホタルをアロンの方に見せた。アロンは立ち上がると、それを覗き込むようにカーラのすぐ近くに寄った。

いや、いやだ。アロン君離れて・・カーラさんいに、そんなに寄らないで。

ハウルが追いかけてたホタルがまたアロンに止まりそうになって、ハウルがアロンにのしかかるように絡みついたが、どういう訳かハウルには何とも思わなかった。なのに、カーラとはたとえ距離があっても、楽しそうにアロンが話しかけるだけで何かが湧いてくる。

わたし・・嫉妬してる。それもなんか、カーラさんにだけ強く思ってしまう。
・・・それはきっと、二人の波長がすごく合ってるからだ。カーラさんとアロン君が惹かれ合っているからなんだ。

その時、目の横にすうっと光るものが映って消えた。それから少しして、頭の中にもぞもぞと動く感じがした。

『え?な、なに?!』

確かに何かが頭の中で動いてる。さっき飛んでた光・・ホタル?ホタルが頭に止まったの?!

とたんにぴんと閃いた。

『アロン君とカーラさんに割って入る口実できた!』

アロンとカーラがいるところに走り寄った。

「カーラさん、か、髪の中にいるみたいなんです、捕ってくれません?」
「え?あはは、ユミちゃん、頭きれいよ」
「もわもわした髪を薮と間違えたんじゃねえの?それか出らんないか」
「捕って!もそもそして、なんかいやなんです」
「待ってね。おいでおいで」

カーラは邪魔されたことも気付かず、裕美子の髪の中から出てきたホタルを手に乗せて喜んでいた。

「はい、裕美子のホタル。きっとあなたを気に入ったオスよ」

ホタルを乗せた手を裕美子に差し出した。疑いを持たないカーラに裕美子は少しすまない気がした。

「ありがとう・・。おいでわたしのボーイフレンド」

カーラの手から裕美子の手に、ホタルはよじよじと歩いて渡ってきた。ゆっくり点滅を繰り返すホタル。顔を上げると、目の合ったカーラはにっこりと微笑み返した。その柔らかな笑顔に、いろんなことをしてアロンの傍にいようとしていた自分がなんだか腹黒い者のように思えてきて、気が滅入ってしまった。

ずるをして隣の席に座った。生徒会でアロン君の安全委員と関わる係りになって、安全委員の参加行事まで変更して、さらに係りの仕事に個人的な理由で手伝いまでさせて、強制的に一緒になる時間を作り上げてきた。
でもそれは一緒になったといっても、アロン君の気持ちとは一切関係ないもの。嫌だろうが面倒だろうが、お仕事だから、アロン君はわたしのところにやって来なければいけないのだから。
それに、一緒にいるからって、その先何があるわけでもない。何を望むこともできないのに。・・これが、わたしとアロン君の関係の限界なんだわ。カーラさんにはない、限界なんだわ・・・。

裕美子はいつまでも手に乗っているホタルを眺めながら、そこから離れた。

『ごめんね、アロン君、邪魔しちゃって。あなたを支えるはずだったのに、邪魔しちゃって・・』

この後、裕美子はアロンの近くに行かないようにした。そんな裕美子を慰めるかのように、ホタルはいつまでも裕美子のところにい続けた。


次回「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(10):泊れなかった、けど・・」へ続く!

前回のお話「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(8):腹ごしらえ」


対応する第1部のお話「第1部:第11章 7月のホタル鑑賞(5):あなたも私を探して」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部の同じシーンを裕美子視点で見た回でした。髪の中に入ったホタルを取ってもらいにカーラちゃんのところに行ったのは、カーラちゃんを邪魔するためだったんですね。でも、かえって自己嫌悪に落ちてしまうことになってしまいました。とはいえ、後々のことを考えると、裕美子ちゃんがカーラちゃんを邪魔するのは運命だったようですね。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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by TSO (2014-05-31 22:58) 

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