So-net無料ブログ作成

<第2部:第10章 夏のエピソード(11):いなかった幼なじみ> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第335回
<第2部:第10章 夏のエピソード(11):いなかった幼なじみ>


C組林間学校2日目。

「べた凪ぎねえ。波で遊べないじゃない」

ハウルさんの言うとおり、今日の海は凪いで静かだった。
波打ち際バレーとかやっても波に足をさらわれるとかのハプニングも起きないので、ハウルさんと勇夫君で何か面白い遊びはできないかといろいろ考えて、「水の中で騎馬戦やってみようか」とか物騒な話になってきた。
水の中に突き落とされて髪が濡れるのがいやなので、わたしはちょっと休憩とみんなとは別行動を取った。パーカーを羽織ると、砂浜から離れ岩場の方に行ってみた。




岩場の方に行くと、海岸のすぐ側に穴がたくさん開いた灰色の岩がいくつも突き出ていた。今は引き潮のようで、岩のくぼみにはどこも潮溜まりができている。岩から岩へ渡り歩くのも、普段は泳がないといけないのかもしれないけど、今はせいぜい膝くらいの深さだから、結構沖の岩まで歩いていける。白い砂がわずかな波の流れにのって揺れ動く、そんな浅い岩間を伝って海岸から少し離れた大きな岩にわたしは登ると、沖の方を向いてぺたりと座った。この岩より沖は少し深くなっているみたいだった。
わたしはそこでぼうっと水平線の方を眺めた。目は何を捉えているでもなく、ただゆらゆらと揺れる海と空の境目の辺りを行き来しているだけ。心の中はアロン君の幼馴染のことを考えていた。

もうすぐアロン君と将来を約束したという幼なじみがやってくる。お友達以上の付き合いには慎重なアロン君が認めた人、それは小さいときから気心知れてるからというのはあるのかもしれないけど、今アロン君と最も親しい女の人には違いない。美人で何でもできる美女さんがちょっかい出してるけど、その年月を経た信頼関係は簡単に崩せるだろうか。みんなの前に連れてくることになってるから、何らかの対決は発生するんだろうけど・・・。
どっちでもいいや。わたしには蚊帳の外の話ですもの。

・・・どうして蚊帳の外なの?
わたしはアロン君と関わりのある人になることを望んで今まで根回ししてきたのに。

・・・当たり前じゃない。許嫁がいようと、美女さんがアタックかけようと、わたしはあなたにアプローチするでもなく、深い仲になろうともしてこなかった。そもそもそんなことしちゃいけない人だものわたしは・・。だからでしょ。

でもそれじゃ、アロン君を好きっていってることに、なんの意味があるんだろう・・
こんなに、好きなのに・・・

自問自答を繰り返していくうちに胸がぎゅうぎゅうと締め付けられて苦しくなっていった。わたしは、声を出して語りかけた。

「アロン君。わたしどうしたらいい?許婚と仲良くしてるあなたなんか、わたし見たくない」

ふーっと大きく息をついていると、ざぶざぶと浅瀬を歩く音がして、聞きなれた声がしてきた。

「あれ?小泉。どうしたの?みんなあっちで泳いでるぜ。ハウルが水中騎馬戦やるとか」
「アロン君!」

え?!いつの間に?き、聞かれた?!

「・・いえ、ちょっと一人でボーっとしたくって」

わたしのいる岩に登ってくるアロン君をあわあわして迎えたが、

「ふーん。ハウルのテンションについてけないって?」

アロン君の感じからすると聞かれた様子はなさそう。波の音でわたしの小声なんかかき消されたみたいだ。

「ち、違うんです。ちょっと本当に海眺めてたいって思っただけで・・」

よ、よかった・・。海に向かって叫んだりしてなくてよかったわ。

「それより、おさななじみの人、迎えに行かなくていいんですか?そろそろ・・」
「ああ、うん・・まだ、かな?」
「そう・・」

嫌と思ってたこと、自分でぶり返しちゃった。何してるのかしら・・。

自分で気持ちを暗くしてしまった。だけどアロン君もこの話題には乗ってこず、幼なじみの話をすることもなく、わたしのちょっと離れた横に座ると、同じように水平線の方を眺めてる。
目線の先には鳥が飛んでるわけでもなく、なんら変化のない海原。アロン君は今何を思ってこの海を見ているんだろう。
せっかく好きな人が横に現れたんだから、何かお話しないとかな・・。
わたしはその横顔に話しかけた。

「アロン君、海好きですか?」

こっちをちらっと見る感じで答えた。

「大好きだよ」
「そうですか・・わたしは、あまり好きじゃないんです」
「小泉、泳げないの?」
「いいえ?得意じゃないけど、一応泳げます。」
「じゃあどうして?なんかおぼれたことがあってトラウマがあるとか?」
「いいえ」

ここで許婚といるアロン君なんか見たら、よけい海嫌いなっちゃうなぁ・・

わたしはすぐ下の岩を洗う海に目を落とした。静かだから浅い海の底は少しゆらゆらしながらも見えていた。白い砂地だ。でもその先の深みは黒っぽくなってる。岩があるのか海藻が生えてるのか・・。もうそれはわたしには分からない。あの上まで泳いでいっても、わたしの視力ではきっと、潜って触ってみるまで分からないだろう。

「・・わたし目が悪いから、水の中もぼやっとしか見えないし、つまらないっていうか・・もっと見えたら面白いんでしょうけど。メガネつけて泳げたらいいのに」
「でも、裸眼じゃ普通は見えないからねえ」

少し経ってから、わたしはきょとんとした顔をしてアロン君の方を見た。

「?・・どういうことですか?」
「・・・・あの、水中メガネとかゴーグルつけて泳いだことある?」
「いいえ」
「人間の目は水の中で目あけてもぼんやりとしか見えないよ。カエルみたいにレンズがでてくればいいけど。だから水中でもよく見えるように水中メガネってのがあるんだよ。知らなかった?」
「目のいいアロン君でも、ぼんやりとしか見えないんですか?」
「そうだよ。本当に知らなかったの?」
「知りませんでした・・・空気中でもメガネないとぼんやりなので・・」

あははははは

アロン君は手をお腹に当てて笑い出した。

こ、これって結構常識的な事?そ、そっか、視力がそれなりにあれば、水の中で目を開けたときとの違いにすぐ気付くのか。わたしは小さい頃から目悪かったし、泳ぎに行くこともほとんどなかったから・・・ア、アロン君、笑いすぎです!

わたしは赤くなった顔で抗議した。

「わ、笑わなくたって・・」
「ごめんごめん。小泉も意外ととぼけたところがあるじゃん。あはっはは」
「もう、怒りますよ」

アロン君はまだ笑いながら手にしてたものを上に上げた。

「ごめんごめん。ほら水中メガネあるから、見てきてご覧よ。ここ岩場だから、岩のすき間にカニとか小魚とかいるんじゃない?でも手突っ込むとウツボとかいたら危ないからね」
「借りていいの?」
「いいよ。16年思ってた常識を覆してきなよ」
「わたし12月生まれだから、まだ15才です」

メガネないとどのみちあまり見えないのだろうけど、どれくらい水の中がはっきり見えるのか、知りたいわ。

「じゃ、借りますね。あの、メガネ持っててくれます?」
「いいよ」

わたしはメガネを取るとアロン君に手渡した。
メガネを取ったことで途端に世の中はぼうっとした世界になった。でも目を凝らして近付けばこの世界では物はちゃんとくっきりと見える。水の中も同じだったの?ぼやっとしてるのが当たり前だから気にしてなかっただけ?
メガネを受け取ったアロン君がこっちを見てる。何だろう、単にこっち向いてるというより、わたしの顔を覗き込むように見てるような気がする。

「・・わたしの顔見てます?なんかへん?」
「い、いや。メガネ取った小泉ってもしかして初めて見たっけ?・・なかなか・・な・・顔してるじゃん」
「え?いやだ、からかわないでください。じゃ、ちょっと行ってきます」

14章_5_0111挿絵s.jpg 14章_5_0112挿絵s.jpg 14章_5_0121挿絵s.jpg 14章_5_0122挿絵s.jpg





手始めに立ったまま顔だけ水につけて、水の中を覗いてみた。確かに自分の足がはっきり見える気がする。
別の岩のそばまで行って、同じように顔だけつけて岩の側面を見てみた。水面近くなら近付けばメガネがなくてもピントが合う。そこには水面と同じ岩の表面がくっきりとあった。

「ほんとうだ。水の中も空気中と同じように見える。視力のせいじゃなかったんだ」

そう思うといろいろ見てみたくなった。
岩に張り付いている貝、海の底の砂や石、岩から生えている海草、今そこを横切ったのはもしかして魚?・・
わたしは髪が濡れてることも気にせず、夢中になって泳いでいた。




しばらくしてアロン君が待つ岩の所に戻ると、岩の上に寝そべってたアロン君にわたしとしては少し興奮気味に今見てきたことを伝えた。

「アロン君、ありがとう。あー、楽しかったです。見えましたよ水の中。近眼なのでやっぱり近付かないとピント合わないんですけど、でも近くに寄ればはっきり見えて、すごく感動しました」

起き上がったアロン君は、なんとも言わずにわたしの方を向いて止まった。メガネ外してるのでピントがあってないけど、またわたしの顔を覗き込むようにしているみたいだ。
なんだろ。わたしの顔になんか付いてるのかしら。
ちょっと間を空けて変な質問をされた。

「え・・と、どなたでしたっけ?」
「え?小泉・・裕美子ですよ」
「・・・あれ?!髪形が・・」

滴の垂れる頭に手をやったとき気付いた。濡れて真っ直ぐになった髪。

14章_5_021挿絵s.jpg 14章_5_022挿絵s.jpg 14章_5_023挿絵s.jpg


「ああ、そうか。わたしくせっ毛なんですけど、濡れるとくせが取れてまっすぐになるんです。別人みたいでしょう?これも結構嫌で、よくからかわれたから、みんなの前では見せないようにしてるんです」
「え?!小泉??・・本当に別人みたいだ。他のみんな知らないの?風呂とかでバレない?」
「微妙にタイミングずらしてるので・・まだ知られてないですけど」

アロン君はなぜか考え込んでしまった。
わたしは髪を拭きながらアロン君の反応を気にしていた。

変に思われてるんだろうな。からかわれるかしら。・・・でも、これもわたしだから、アロン君なら知っといてもらってもいいかな・・

何も会話ない状態がしばらく続いたので、嫌われてしまったかと気になってしょうがなかった。強い日差しで拭いたところから髪は乾きはじめ、元通りのくるくるした髪に戻りつつあった。
するとアロン君が急にわたしに向かって言った。

「小泉、ちょっとお願いがあるんだけど」

予想してなかった言葉が来たので少し驚いた。

「わたしにですか?」
「あのさ、おさななじみ役を引き受けてくれない?」
「え?・・おさななじみさん、来れなくなったんですか?」
「いや、違うんだ・・。実はいないんだ、そんな人。あれ、美女から逃げる口実でレソフィック達と考えたものだったんだ」
「へえー。」

妙に感情のない応答を返してしまった。でも言った後で頭の中でその意味を問い直した。

『なんですって・・?いない?架空の人?幼なじみの許婚って・・うそ?美女さんから逃げるための、うそ?』

急に雲から太陽が出て視界が開けたような感じになった。ちょっと前まであった窮屈な胸のつっかえが取れ、風が吹き抜けた。

「あははは、そうなんですか?うそだったんだ。あはあは。なんかずいぶん手が込んだうそですねー」

だってわたし、この幼なじみの許嫁の話最初に聞いたの、勇夫君とレソフィック君からよ。3人で結託して作り話してるってことでしょ?この3人だからできるうそよね。

「うふふ、うふふふ、ふふふ」

安心からか、自分でもどうしちゃったんだろうと思うくらい笑いがこみ上げてくる。アロン君が不思議そうに見てるのが分かるけど、止まらなかった。

「メガネ外して笑ってる小泉は別人だね・・。それなら俺の美人眼も疑われないですむや。勇夫をさ、女装させるってのもあっていっぺんやったんだけど、あれで挑んだら俺のセンス疑われるとこだったよ。おさななじみやってくれる?」
「でも・・髪濡らしてないとですよ?ちょっと乾くと戻ってきますから、無理じゃないですか?」

確かに濡れて真っ直ぐな髪にすればわたしとは気付かれないかもしれない。そこで笑って挨拶するだけならなんとかなるかもしれないけど、やる気満々の美女さんの相手もしなきゃいけないというのに、時間的にもやる内容にしてもできなさそうだ。

「5分くらいなら何とかもたないかな?会見は5分までで、すっ飛んで逃げるから」
「うーん」

5分だけかぁ。なるべく会話しないでアロン君にリードしてもらって、わたしの髪が濡れてる間にさっさと立ち去る。美女さんのペースにならないようアロン君がうまく仕切ってくれればいいけど・・。

「たのむ!」

その間、わたしとアロン君は恋人同士。5分だけだけど・・でも、なって、みたいなぁ。

「・・わかりました」
「すまん!ありがと!」

ああぁ、オッケーしちゃった・・・。いい?いいよね?一時的なものだし。

幼なじみの許嫁がいると言われた時のあの無力感が、それが嘘だと分かった途端にどっか行っちゃって、希望が湧いてきたように高揚してきた。

どのみちわたしはアロン君の恋人になることはできないのに、なぜこんなに希望が湧くの?
5分だけ幼なじみの許嫁をやってって頼まれたから?5分だけは恋人をしてもアロン君が許してくれるから?
・・そんなんじゃなくて、本当に期待してるの?そんなの後でがっかりするだけよ?分かってるでしょ?わたし。
ああ・・それでもやっぱり、わたしの体は希望が湧いてきたと感じてる・・・。

とくんとくんと脈打つ胸の鼓動をなんとか抑えていると、アロン君はわたしを幼なじみに据えた前提で話を進め始めた。

「作戦だけど、昼過ぎにみんなにお披めすることにしよう。1時に宿の裏手で落ち合うでいいかな。俺達は5分だけ会見してすぐその場を去る。俺と幼なじみは今日明日みんなとは別行動で懐かしい話に花を咲かせるってことにしてるから、会見が終わったら俺はもう引き上げるよ」

お披露目が終わった後、アロン君はもう帰っちゃう。幼なじみと帰ることになってる。
わたしも一緒に帰る・・・ってわけにはいかないですよね。付いていっちゃいたいけど・・・

「わたしどこまで行けばいいんですか?」
「小泉はいなくなったらまずいからね。会見が終わったら宿の裏手まで戻るから、それでまたみんなと合流して。・・・なんか本当にこのためだけに付き合ってもらうようになっちゃって申し訳ないなあ・・今度どっかでたっぷりお礼するから」

ほんと?たっぷり?
また自分に都合のいいお願い考えちゃおうかな。

外してたメガネをかけ直すと、覚悟してねと思いを込めて言った。

「高くつきますよ」

少ししまったというような顔をしたアロン君。だけどそんな先のことより、もっと目先のことをちゃんとしておかなければならなかった。このお芝居に加担するにはいくつか解決しなければならないことがある。

「偽装するうえでいくつかまだ問題が・・。髪濡れてた方がいいってことは水着のままがいいですよね?でも私の水着は知られてるでしょうから、水着隠すのに何か上着で羽織るとかしないと」
「そっか・・。よし!水着買っちゃおう。行くぞ!」
「えー?これから買うんですか?」
「バイクなら店まですぐだって。乗って乗って」

またまた思いもよらなかった展開になってきた。


次回「第2部:第10章 夏のエピソード(12):タンデムしちゃいます」へ続く!

前回のお話「第2部:第10章 夏のエピソード(10):中庭で夕食です(5)」


対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(4):大近眼は陸も海も同じ」 「第1部:第14章 夏のエピソード後編(5):5分だけおさななじみ」 「第1部:第14章 夏のエピソード後編(6):水中騎馬戦」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



Copyright(c) 2009-2015 TSO All Rights Reserved




対応する第1部のお話はちょうど連載100回目。その時と同じシーンを裕美子ちゃん視点で振り返った回となりました。挿絵も当時第1部で掲載したものです。
それまで脇役に徹していた裕美子ちゃんを、ちょっと注目に値する娘だと初めてアピールするときなので、メガネを外した時の絵はかわいく描かなきゃと当時の画力で(今も変わりませんが)がんばりました。
お堅いまじめな娘で特定の時には役に立つけど、こういうところに絡んでくるとは思いも寄らなかったキャラというところは、鴨川ホルモーの楠木ふみさんと似てるんですよね。
次回は第2部のみとなるアロン君と裕美子ちゃん二人だけのシーン。裕美子ちゃんはあまり意識してませんが、アロン君にはずいぶんと印象を与えちゃってる話となってます。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



ぽちっと応援してください。
にほんブログ村 小説ブログ 学園・青春小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 イラストブログ オリジナルイラストへ
にほんブログ村
にほんブログ村 漫画ブログ 4コマ漫画へ
にほんブログ村


nice!(14)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

nice! 14

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。


☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆




この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。