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<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(5):ペアペアチケット> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第353回
<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(5):ペアペアチケット>


「ユミねえ、どこ行くの?」

弟のひろきが歯ブラシをくわえて玄関にやってきた。

「高校の兄弟校の生徒会の集りがあるんです」
「夏休みなのに?」
「まあ遊びみたいなもんですよ。海洋公園に行くんですから」
「ひろきは友達とずっと遊びに出てたから裕美子の予定はぜんぜん聞いてないのね」

見送りのお母さんがひろきを見てにこやかに言う。ひろきはクラブの夏合宿や塾の夏期講習、友達と遊びに行ったりでほぼ毎日、家では寝るだけのような忙しい夏休みを送っていた。

「でもさあ、今年の夏はユミねえが外出するの、何回も見てるよね」
「ほんとうねえ。日焼けした裕美子がまた見られるなんてねえ」

確かにここ2,3年、通院や療養で出る以外は、わたしは家に引きこもって太陽とは縁遠い生活をしていた。完璧ではないけれども、誘われたら行ってみるのもいいかもしれないと思えるようになったのだから、心配していた家族から見れば喜ばしいことなんだろう。だからしみじみ言うお母さんのことは分かるんだけど、そこで止まっていればわたしもそれに合わせた応答をするんだろうに・・・
お母さんは次第に調子に乗り始めた。

「今日も彼氏と駅で待ち合わせして行くそうよ」
「え、マジ?!」
「いつからそんなに復活しちゃったのかしらねえ」
「そういえばオレ、こないだユミねえが自分の部屋でミニスカート履いてるの見たんだけど。すげえ違和感ハンパねえ」
「知ってる。お友達からもらったらしいんだけど、中学の時のお下がりだって。色気付いちゃって、どうしたのかしら・・・って、当然よねえ、彼氏がいるらしいんだもんねえ」
「か、彼氏じゃないから!それに違和感って何ですか!お母さん、か、カバン下さい」

お母さんが手にしているカバンをひったくるように取り上げると、逃げるように玄関を後にした。

「い、いってきます」
「いってらっしゃ~い」

なんか、ここんところいつもこんな出発のしかたしてる気がする。それに、今日は”彼”、いないから。





片いなかの駅前では、リーダーが時計をチラチラ気にしながら立っていた。

「裕美子さんは日本人らしく予定より少し早く来るからな。僕も早く来ていれば、その分一緒にいられる時間が増えるしな」

ところがやってきたのは裕美子ではなく、生徒会長だった。

「よぉお、チャン君。おはよう」
「あ、会長、おはようございます」
「すいぶん早ぇの。一緒に行くかぇ?」
「す、すみません。僕他の人と待ち合わせしてて・・」
「おや、だれとぇ?」
「1年C組の副委員の・・小泉さんですけど・・」
「おお彼女か。いつも仲よう生徒会室に来ちゅうらもんな。普段から仲いいんらの。もしかして付き合っちゅうの?」
「い、いやあ!、そこまでは・・・」
「どうしてよぅ。あれだけ仲ゆうたら、付き合おうゆぅたらいい返事くれよぅよ」
「それが・・結構お堅い人で、こういう事は簡単にうんって言わなそうで」
「真面目そうらぁもんなぁ、あの子。でも脈はありそうなん?」
「どうなんですかね・・・」
「ふうーん」
「そう言えば会長は?彼女いないんですか?」
「おらんねえ」
「好きな人もいないんですか?」

生徒会長は少し下を見て頭をかいた。

「おるにゃぁ、おる。が、うちの学校じゃぁねえよ」
「へえ!学校外ですか。どなたなんです?学校外の人なら聞いてもいいですよね。誰にも言いませんから」

会長は照れくさそうにして、しばらく悩んでから言った。

「今日、会うろ。実ぁ、第2分校の生徒会の人なんよ」
「ええー!そうなんですか!」
「どの子かは言わねぇどくよ」
「そしたら今日、会長をよく観察しておくことにしますよ。で、何かアクションはされてるんですか?」
「んん・・、今日は声かけぅつもりよ。生徒会の活動もこれで終わるぅしな。もう引退やん」
「そ、そうですね。もう生徒会の行事では会えなくなるんだ・・」

3年生の生徒会長は、2学期始まって早々の形式的な引継式をやったら、生徒会から引退となるのだ。

「そうだ、チャン君にあげよぅ」
「え?」
「僕ぁ、その子を映画に誘ぅつもりなんやけぇも、そのチケットの片割れを・・」

生徒会長がカバンをごそごそして出したのは、手作りっぽい紙切れだった。

「片いなか映画館のペアチケットなんよ。ペアペアチケットゆうて、ペアチケットのペア、つまり4人分あるんよ。実ぁ僕ぁあそこの映画館でバイトしちゅうて、館長からもろぅたもんなんよ」

こんなの本当に使えるんだろうかというような安っぽいチケットだっただけに心配だったが、片いなか映画館だけで使える超ローカルなチケットだとわかると納得がいった。手作りっぽいわけだ。

「片方のペアチケット、君にやるけぇ、小泉君誘ぅて行ったら?あ、彼女来たよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ほいじゃぁ、僕ぁ邪魔せんよぅ先ぃ行っとるわ。全体集合場所でな」

改札に向かって歩いて行く生徒会長に、リーダーは腰を90度近く曲げてお辞儀をした。そこに着いたばかりの裕美子が声をかけた。

「おはようございます、リーダー。どうしたんですか?腰痛めたの?」
「ああ、おはようございます!いいえ、ぜんぜん正常ですよ、ホラ!」

リーダーは腰をグンッグンッと突き出すように振ってみせた。しかし3回目でぐきっと異音がして、反り返ったまま「あうあっ!」と悲鳴を上げてへたり込んだ。

「きゃあ、だ、大丈夫ですか?!」






リーダーは裕美子にカバンを持ってもらって、上り線のホームに着いた。

「す、すみません。何だかこのところ醜態ばかり見せてるようで、なさけない・・」
「気にしてないから大丈夫ですよ。でも、ちょっとここのところツイてないですね。お祓いしてもらった方がいいのかしら」
「お祓い?」
「あ、何か落ちましたよ」

ひょいと裕美子が拾い上げたのは例のペアチケットだった。

「何ですかこれ」
「あっ、そ、それ、映画のチケットなんです!い、一緒に行きませんか?!」
「わ、わたしと?」
「は、はい!」

裕美子は断ろうかと思ったが、ここで断ったらただでさえ不幸続きのリーダーである。

このあいだ、バーベキューでは自分のせいでひどい目にあって、またみんなの前で醜態をさらす結果になったのに、わたしを責めるでもなく、怒るわけでもなく、こうして待ち合わせもしてくれて、映画にまで誘おうなんて。
これでもまだわたしに好意があるんだろうか・・。

断ったらさらに落ち込むと思い、とてもじゃないけど断れる状況じゃないと思った。

『わたし、アロン君のことがすば抜けてしまっているからこんななんだろうけど、そうでなかったらきっと、リーダーのこと好きになってたよね。だってわたしはこの人を、尊敬できるもの』

裕美子はこないだの罪滅ぼしに、誘いに乗ることにした。

「いいですよ。えっと、何の映画ですか?」
「そ、そういや、何の映画だろ」
「え?」


次回「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(6):会長のペアチケット」へ続く!

前回のお話「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(4):カーラから借りた本」


対応する第1部のお話「第1部:第16章 改めてカップルで(1):遊んでくれなかったなー?」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部ではいきなり映画館に現れた裕美子ちゃんとリーダーでしたが、このような経緯で行くことになったのでした。

※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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