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スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第27話~ [スト魔女二次小説]

第27話「魔の黒江と魔改造」


霞ヶ浦航空隊の正門を3台の軍用トラックがくぐり抜けた。
先頭のトラックから首を出して許可証を見せているのは、横須賀のウィッチ教練隊教官横川少佐。その後ろから入ってきた2台は、なんと陸軍のトラックであった。

水偵格納庫の前に並んだトラックから横川少佐に続いて降りてきたのは、陸軍の深緑の制服を着て、背中に軍刀と釣竿を背負ったウィッチだった。そのウィッチは横川少佐をとっとと追い抜いてハンガーに入り込むと、中に向かって大きな声を張り上げた。

「陸軍航空審査部の黒江綾香だ。一崎天音はいるか?」



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「陸軍航空審査部の黒江綾香だ。一崎天音はいるか?」

ハンガーの開け放たれたシャッターの前で、腰に手を当てて仁王立ちしているシルエットの人物が、大きな声をハンガーの中に向け放った。
真っ先に反応したのは優奈だった。

「陸軍航空審査部の黒江?! ま、ま、まさか! 魔のクロエ!?」

優奈の零式水偵脚の整備を手伝っていた天音が、鼻の上に付いたオイルを拭き取りつつ疑問を投げた。

「誰それ? 魔? 悪者?」

とたんに天音の襟首を掴んで唾を飛ばしまくる優奈。

「知らないにも程があるわ、天音!扶桑海事変で扶桑海の三羽烏と並んで大活躍された、陸軍航空隊の超ベテラン・ウルトラ・スーパーエースじゃない!失礼を通り越して罪よ、罪!」
「ええー?」

ハンガーに入ってきたその人は、声の主のところに歩み寄りつつ高笑いをした。

「ははは! いいじゃないか。私はもう過去の遺物だからな」

掴んでいた天音の首根っこを放り投げると、優奈はキラキラした目を向けてその大ベテランを迎えた。

「そんなご謙遜を!ああ~、お会いできるなんて光栄です! ……それでそんな超有名なベテランウィッチ様が何用でこんなところへ?」
「うん、一崎天音ってのはどいつだい?」

優奈に頭を揺すられて少しふらつく天音が、優奈の横からゆっくりと立ち上がって手を上げた。

「わたしです」
「ああ、お前か。坂本からの頼みでな、面倒を引き受けに来た」

優奈が驚愕の表情を黒江に向けた。

「坂本?! 坂本って、まさかあの……」
「海軍の坂本美緒って奴だ。知ってるか?」
「誰ですか? それ」

まるで感情の入ってない疑問を口にした天音に、後ろから優奈の強烈な張り手が襲った。天音はオデコからハンガーの床に向かってダイブした。

「信じらんない! リバウの三羽烏の坂本少佐でしょ!」
「いったぁ~。いったい何人三羽烏っているの~? 三羽どころじゃないんじゃない」

優奈はそれどころではなかった。

「ままままさか、あの坂本少佐も天音の事を?」
「ああ、ちょっと手伝ってやってくれってな、連絡があった」

優奈は立ちくらみがした。

「なんで、天音ばっかり、そんな有名人に……」
「ウィッチの世界は結構狭いからな」
「本当ですか? ……つ、筑波優奈は、ちっとはその世界で知られてますか?」
「筑波? ……もしかして飛行脚の航続距離を倍に伸ばして、20時間くらいの偵察を平気でやるとかいう奴か?」

優奈がガバッと顔を上げた。

「陸軍の偵察部隊が欲しがってたよ。もしかしてお前か?体力お化けって言うからどんなゴツいやつかと思ったら、見た目は普通だな」
「本当にご存知なのですか?! こ、光栄です~~」

背中をばんと叩かれた。

「ひよっこが何の心配してやがる。お前らが名を売るのはこれからだろ」




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陸軍と海軍のメカニックが一緒になってトラックから測定機材を下ろすと、零式水偵脚に接続し、天音にそのストライカーを装着させて調整を開始した。

天音も適性検査の時からストライカーの装着経験があるので、魔導回路への接続やエンジンの起動の仕方は知っているのだが、いろいろ調整をしてみるものの、やはり思うようにいかない。
一度魔方陣が切れかかった蛍光灯のように瞬きをしたが、それっきり。
天音の魔導波の波長が普通のウィッチよりかなり長いことがストライカーが動かない原因だということを、以前磐城に見てもらった事で天音も理解はしている。それが分かっていてもやはり動かせられない。

「一崎、お前も波長を短くする努力をしろよ」
「そ、そうは言っても、どうやるんだか・・」

黒江は固有魔法でストライカーユニットの細かい性能を数値として正確に読み取ることができる。あがりを迎えた後も航空審査部でテストパイロットとして活躍しているのは、この固有魔法があるからだ。その能力を生かして天音に合ったセッティングを探し出そうというのだ。
調整しては黒江が履いて数値を確かめ、天音が動かしてみて、また調整というサイクルを繰り返す。だが黒江をもってしてもその最適値を探すのは一苦労であった。
散々いじくりまわしたが、やはりうまくいかなかった。零式水偵が積んでいるエンジン「金星4型」では限界のようだ。

「機種を変えてみるか」




◇◇◇




零式水偵が片付けられ、次に用意されたのは、外装が全くなく、エンジンだけが剥き出しの状態で発進装置に積まれているものだった。

それは優奈達が使っている零式水偵脚のエンジン「金星」にそっくりだったが、「4型」ではなく、後継の水上爆撃脚「瑞雲」が積んでる「金星5型」だった。瑞雲は生産機数が少なくて実戦部隊が全て持って行ってしまっており、エンジンしか持ってこれなかったそうだ。

「金星5型エンジンだ。海軍の次世代偵察機の瑞雲が使っているエンジンだな」

黒江の説明に、セッティングを手伝っている横川少佐が解説を加える。

「筑波さんが履いてる零式水偵は航続距離の長さが売りだけど、瑞雲は多少航続距離を犠牲にして、スピード、爆撃能力、格闘能力を持たせた高性能な万能水上機です。一崎さんの最有力機種候補よ」
「天音は瑞雲か。良い機体だね」

天音が装着してみると、魔方陣が現れて、エーテルのプロペラが回った。

「プロペラが出た! 回った!」

だがなんだか回転が上がってこない。よく見ると魔方陣も非常に細かく点滅してるようだ。勿論機体を動かすほどの出力は出ていない。技師と黒江が調整をいろいろ試みるがダメだ。あるところで頭打ちになってしまった。

「これも天音の魔導波を全て捉えきれてないな」




◇◇◇




最後の試みが行われた。大きめだが華奢でスマートな機体が陸軍のトラックから下ろされた。
その機体は陸軍の偵察脚だった。

「陸軍の偵察機?!」
「百式司令部偵察脚。陸軍自慢の偵察機だ。これも金星エンジンを積んでるんだ。それも最新型の6型。百偵のは高高度で特に高速性能が出せるようチューンされたヤツだ。
6型は、それまでの魔力とエーテルを魔導化器で混合する方式から、魔導シリンダ内にエーテルを直接噴射する方式に変更になってさらに高出力を出せるようになってる。陸軍の五式戦闘脚とか海軍の零戦六四型戦闘脚にも使われているほど力のあるエンジンだ。エーテルの噴射量をきめ細かく制御する必要があることから、魔導波検波装置が非常に感度の高い物に進化してる。今日は海軍の零戦六四型が使っている検知レンジの広い検波装置を持ってきたから、百偵のをこれに交換して試してみよう」

ここまでの調整で天音に向いたセッティングのコツをつかんできた黒江は、百偵のエンジンを最初からピタリと当ててきた。
今までとは明らかに変化があった。魔方陣の大きさ、明るさが段違いだ。エンジンも快調に回っている。ただ計ってみるとこれでもまだ飛ぶほどの出力は出てないという。それでもちょっと調整するだけで水上滑走ならすぐできそうなくらいに出力を上げることができた。

「天音の魔導波との同調具合もいい。相性は良さそうだ。エンジンはこれで決まりだな」

だがシステムのキャパシティはもっとある。それを知っているメカニックは、ストライカーユニットとして完璧に動作させたかった。

「魔導波検波装置と魔力増幅装置の同調は、工場で波長の短いほうを切り捨てる改造をすれば、もっと長波長の方に調整できます。そうすれば飛行可能な出力を出せます。やりますか?」

黒江が横川に振り向いた。横川は頷いた。

「やりましょう」

黒江も頷いた。

「やるべきだろう。一崎に100%働いてもらうためにも空は飛ぶべきだ。それでその改造6型を瑞雲に積めないか?同じ金星エンジンだからちょっとすれば載るだろ?」
「か、完全に一崎さん専用機になってしまいますよ」
「いいんじゃないか?本人だって世界唯一の固有魔法保持者なんだし。許可降りるだろ。問題はそれやるとして、いつ完成するかってとこ」
「さすがに年明けすぐの神川丸出撃には間に合いません。それに本人がいなくなってしまっては微調整にも問題が……。あとストライカータイプの瑞雲の生産も非常に少ないので、調達も大変です」
「エンジンができたら整備員ごと船で送り込んで、現地で調整すればいいだろ」
「その辺はもう海軍側の仕事ね。ありがとう黒江大尉。エンジンと瑞雲の調達は私も手を尽くすわ。あ、そうだ。同じ金星エンジンだから、やりくりしたら零式水偵脚にも乗らないかしら。零式水偵脚なら手に入り易いし」
「わーお! そしたらわたしもその凄いエンジン積んだ零式水偵脚で飛んでいい?!」

優奈が目を輝かせた。

魔改造だ……

そこにいた技師や整備兵みんながそう思った。
でもやってみたい。関わってみたい。仕事でそれできるんだろ?
メカニック達の変な血が騒ぐ事案だった。

「筑波さんは航続距離の長大さが売りなんだから、それが損なわれるような改造はダメでしょう」
「ぶーっ。いいなあ天音ばっかり」
「一崎さんにはまず飛んでもらわないことにはねえ。とにかく道筋が見えてきて何より。機体についてはこっちに任せて」

横川少佐は一安心したようだった。一方魔改造が気になる優菜は、黒江大尉に質問した。

「ところで金星6型って何馬力ですか?」
「うーん、1500だっけ?」
「凄い! 零式水偵の1.5倍? 天音、扱える? 戦闘脚が使ってるエンジンだってよ?」
「この際、標準の機体は乗らない方が比較できなくていいわ。そういうものだって思えるから」

気楽に言ってのける横川。

「横川さん、それで大丈夫なんですか? わたし怖いんですけど~」

黒江もはっはっはと笑った。

「よっし。じゃあ俺の仕事は終わりだな。さあそれじゃ釣りでもしていくか。霞ヶ浦は何が釣れるんだ?」

黒江は刀と一緒に置いてあった釣竿を拾い上げた。天音は魚釣りと聞いてひょうっと耳と自慢の長いしっぽを伸ばした。

「ありがとうございました、黒江さん。わたしがお魚いるところを見つけてあげましょう」
「お、噂の水中探信か。見せてもらおうじゃん」




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その日の昼過ぎまで、黒江を中心に427空のみんなは霞ヶ浦に小舟を出して釣りを楽しんだ。

「静かな湖は海とはまた違った水中感ですね。すごく小さい魚もいるから、魚を直接見るより、水の音を聞いて探すというか、繊細な感覚が要りますね」
「そうか。繊細な水の音をね。……まさにお前は『水音の乙女』、だな」
「水音の乙女? なにそれキャー、可愛い」

黒江がつけた天音への二つ名に、優奈がはしゃぐ。

「そんな、恥ずかしいよ」
「良いと思う。水音の乙女」

千里も静かに頷いた。

「海だって油を流したように静かな時もある。きっとその感覚もネウロイを探す時に役立つだろうよ」




その日の夕飯は、みんなで釣った大漁のナマズで、豪勢な天ぷらとなったのだった。




続く


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黒江綾香がストライカーユニットの調整に最適な特技を持っている、その黒江と坂本美緒が最近再会したばかり(といっても2期の前らしいですが)、というなんともおいしいスト魔女オリジナルの設定を利用させてもらいました。
ということで天音ちゃんのストライカーユニットは、エンジンを金星6型に換装した瑞雲が最有力候補となりました。ついでに6型を積んだ魔改造零式水偵も来るかも?
その前に飛行訓練も必要なので、飛べるようになるのはいつのことだか。



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